首都大学東京オープンユニバーシティ (春期)

孫子がわかれば、中国がわかる


講義録

本講座は『孫子』を現代ビジネスに活かす視点から、中間管理職やミドルマネージャーを対象に論じたものである。経営トップ(君主)ではなく、現場を指揮する「将」の立場に焦点をあて、厳しい競争環境で成果を出すためのリーダーシップとマネジメントの要諦を説いている。


1 「孫子」を学ぶ意義

『孫子』は古代の兵法書であるが、その知恵は単なる軍事に留まらず、現代の組織経営や国際ビジネスにも通じる。特に「草食系」の文化に慣れた日本の管理職が、「肉食系」のルールが支配する中国市場に挑む場合、状況を読み切りリスクに備えるための最良の指南書となる。現場リーダーに求められるのは、理不尽な上層部の命令や部下からの突き上げを受けながらも成果を確保する力である。


2 日本企業の現状と課題

日本の企業では昇進後に十分な管理職研修が施されることは稀で、リーダーシップの多くは現場で体得せざるを得ない。現場が機能しているのは、従業員の勤勉さに依拠する部分が大きく、経営中枢がその上に胡坐をかく危険性がある。歴史的には大東亜戦争期の陸海軍中枢が無策を続け、前線兵が奮戦しても敗北を重ねたことと類似している。


3 グローバル化と「肉食系」環境

グローバル市場では、日本的な「従順さ」や「草食系の秩序」が通用しない。特に中国では「金・情報・権力」をめぐる個人闘争が常態化し、信頼できるのは血縁・地縁という現実がある。ここで生き残るには「人脈」や「関係」を戦略的に構築する力が不可欠である。『孫子』が説くのは、まさにこうした不安定な環境下でいかに組織を統率し、成果を担保するかという冷徹な方法論である。


4 「将」の役割と本社との関係

『孫子』は「将は国の輔なり」と述べる。ミドルマネージャーは、経営中枢と現場を繋ぐ車軸の要であり、その関係が円滑であれば組織は強固に発展するが、齟齬が生じれば組織は弱体化する。とりわけ海外赴任では物理的距離が不信を生みやすく、意思疎通の不足は致命的なリスクとなる。したがって公式ルートだけでなく「非公式ルート」での連絡・調整を確保し、本社に複数の理解者を持つことが生命線となる。


5 想定外とリスクマネジメント

『孫子』は「軍争より難きはなし」と説き、機先を制することの難しさを強調する。ビジネスにおいても、事業計画が不十分なまま現地に送り込まれるケースは多い。そこで必要なのは「ワーストシナリオ」を常に想定し、楽観的に対処する姿勢である。そのためには、平素から本社と温度感を共有し、危機対応を即座に支援してもらえる関係を築くことが不可欠である。


6 人間関係と「同舟」の思想

中国社会では「同じ舟に乗る」信頼関係が最重要視される。血縁や地縁を越えた関係を築くには、虚虚実実の駆け引きが不可避であり、時間を要する。逆に一度関係を築けば強力な後ろ盾となる。この構造は『孫子』が戦国の農民兵をどう統率するかに腐心した状況と相似しており、現代のミドルマネージャーも同じく「同舟の仲間」を形成できるか否かが勝敗を分ける。


まとめ

要するに、ミドルマネージャーは「車軸の添え木」として組織を支える存在であり、成果を確保するには「孫子」の兵法に学ぶべきである。海外市場、とりわけ中国のような「肉食系」環境では、従来の日本的手法では通用せず、人脈の構築、リスクの想定、本社との多層的な連携が必須である。本講座は『孫子』を通して、現代のビジネス戦場で生き残るためのリーダーシップとマネジメントの原理を説いたものである。

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