2023.08.21 07:25温故知新~今も昔も変わりなく~【第120回】 羽根田治『ドキュメント 単独行遭難』(ヤマケイ文庫,2012年)子供の頃、「登山遠足」が正直なところ好きになれなかった。山道を延々と登り続けるのが楽しいと思えなかったし、級友よりもペースが遅くなりがちで、先生たちから励まされるのが妙に嫌だった記憶がある。心の傷とまではいわないが、子供心にも登山は向かないと思い込むことになった。山を登るのが苦手...
2023.07.10 12:33温故知新~今も昔も変わりなく~【第119回】 石原敬浩『北極海 世界争奪戦が始まった』(PHP新書,2023年)北極海といわれて咄嗟にイメージできるものに何があるだろう。白色の氷と濃紺の海水のコントラストがどこまでも続く他に、脳裏に浮かび来るものは限られるように思う。個人的にはどちらかといえば抽象的な存在だった北極海で、いま何が起こっているのかを知らしめてくれる1冊を最近読んだ。その本は「...
2023.05.29 08:34温故知新~今も昔も変わりなく~【第118回】 山本七平『日本人の人生観』(講談社学術文庫,1978年)・山本七平と小室直樹の互いの評価これまでこの「読書録」で山本七平の作品は幾度か紹介した。山本七平の盟友であった小室直樹の作品も一度取り上げている。両者が互いのことを評している文があるが、これがユニークな代物で、山本は小室が著した「ソビエト帝国の崩壊」(光文社、1981年)の裏表紙...
2023.04.30 06:22温故知新~今も昔も変わりなく~【第117回】 小谷賢『日本インテリジェンス史~旧日本軍から公安、内調、NSCまで』(中公新書,2022年)・「墨家」の言葉とインテリジェンスの世界「墨守」するという言葉の源流となった墨子の思想に「故に曰く、神に治むる者は、衆人其の功を知らず。明に争う者は、衆人之れを知ると」というものがある。現代語にすると、「そこで昔から、物事を神妙の中に成し遂げた者は、人びとにその功績を知られること...
2023.03.29 10:35温故知新~今も昔も変わりなく~【第116回】 井伊直弼『茶湯一会集』(岩波文庫,2010 年)・乱世から治世へと変わりゆく武士戦乱の世から天下泰平となった徳川時代。武士たちの有り様も大きく変わっていた。教養が無くとも武芸で名を立てられた乱世ではなく、治世のなかで順応して生きていくために求められるものが変化した。ほぼ同時代、欧州の絶対王政などは常備軍と官僚制という区別や住み...
2023.02.21 09:48温故知新~今も昔も変わりなく~【第115回】 石光真清『城下の人~石光真清の手記』(中公文庫,1978年)孫子に「密なるかな密なるかな、間を用いざる所なし」という一文がある。軍事にとって諜報がどれほど大切かを語るこの一文は、間諜(スパイ)が収集した情報を、政治・軍事のトップが活用する次第を論ずる文脈のなかにある。孫子は情報活動・諜報工作に対して肯定的であり、戦略・作戦レベルにおいて重...
2023.02.06 08:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第114回】 プラトン『パイドン』(岩田靖夫訳,岩波文庫,1998年)民衆裁判によって死刑を命じられたソクラテス。アテナイ人が大切にしていた神聖なお祭りの期間中、国に不浄を持ち込まないとの理由で暫し刑は延期されたのち執行された。民衆裁判では正々堂々と自らの信念を弁明したソクラテスは、刑の執行を待つ身となってから静かにその日が来るのを待ち続けた。弟子...
2023.01.23 08:15温故知新~今も昔も変わりなく~【第113回】 プラトン『ソクラテスの弁明』(納富信留訳,光文社古典新訳文庫,2012年)市民が主役たるその政体において、情状酌量の余地があることをいかに上手に彼らへ訴えるか。それは、古代ギリシャのアテナイにおいて法廷に引きずり出された者たちが、無罪を勝ち取るための重要な戦術の一つであった。紀元前8世紀頃に成立したポリス、その筆頭となったアテナイは貴族政から民主政へと...
2023.01.04 07:58温故知新~今も昔も変わりなく~【第112回】 西田幾多郎『善の研究』(岩波文庫,1950年)今にして思えば幸運だったなと思う一つは、高校時代の倫理科教師が良き先生であったこと。先生は哲学部出身で倫理の教科書や資料集なども執筆していた。それとは別で『先生が教えてくれた倫理』(清水書院)というタイトルで本も出しているから、実名を出しても問題はないだろう。先生の名前は矢倉芳則...
2022.12.20 09:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第111回】 幣原喜重郎『外交五十年』(中公文庫,1987年)クラウゼヴィッツの『戦争論』に次のような一文がある。「戦争のうちには政治が背後に退いているものもあれば、政治がはっきりと前面に現われているものもある。しかしそのいずれにせよ、戦争が政治的であることに変りはない」。先行きが不透明なウクライナ戦争もまた政治的なものであり、ロシア、ウク...
2022.12.04 01:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第110回】 小室直樹『新戦争論~平和主義者が戦争を起こす~』(光文社,1981年)社会科学の考え方を学ぶために、評論家の小室直樹氏(2010年逝去)の作品は10代から20代にかけて良く読んだ。『論理の方法』『日本人のための宗教原論』『日本人のためのイスラム原論』『日本人のための経済原論』などなど。論旨明快な氏の手にかかれば、世の中の複雑な問題も快刀乱麻を断つか...
2022.11.18 08:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第109回】 加地伸行『儒教とは何か』(中公新書,1990年)儒教といえば死後のことは語らないといったイメージで受け止められることが結構多い。儒教の原点ともいえる『論語』の一文、孔子の弟子である子路が「鬼神」を祭る在り方を尋ねたとき、孔子は「未だ生を知らずんば、いずくんぞ死を知らんや」と答えている。これを引くことで、儒教は死後を論じない「合...