2024.04.30 10:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第125回】 野中郁次郎、紺野登『知識創造の方法論―ナレッジワーカーの作法―』(東洋経済新報社,2003年)90年代半ばに、経営学者の野中郁次郎氏と竹内弘高氏の共著『知識創造企業』が出版されたとき、ある経済学者がとても好意的な書評を述べており、その言に誘われるかのように当時読むことになった。日本の企業がイノベーションを生み出していく際に、目にはみえにくく、言葉や数字であらわしきれない「...
2024.03.21 13:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第124回】 平井富雄『禅と精神医学』(講談社学術文庫,1990年)夏目漱石の草枕の冒頭は「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」で始まる。何かしらを行って日々の糧を得て生きていくなかで、少なからずこうした心境に時に至ることは世間一般的によくある。現代人が行き詰まりを感じ、ストレスなどの度が過ぎ...
2024.02.05 03:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第123回】 マキァヴェッリ『ディスコルシ(ローマ史論)』(ちくま学芸文庫,2011年)・マキャベリとのお食事会東京に「マキアヴェリの食卓」というレストランがある。通りすがりに看板を見ただけで、訪れたこともないから論評は一切できないが、HPなどみるかぎりお洒落な雰囲気で美味しそうなイタリアンを出すお店のようだ。以下、このお店と一切の関係ない話だが、「マキアヴェリの食...
2023.12.04 10:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第122回】 朱熹『朱子文集・語類抄』(中央公論社,1974年)・振れ幅のある講座を目指して12月に開講となる明治大学リバティアカデミーでのオンライン講座、「戦争と倫理・戦略と道徳を考える」(教養としての戦略学)」に向けて諸々の準備を進めている。本講座では、戦争=悪、倫理=善といったシンプルな線引きで満足して終えるのではなく、両者を交互に越境...
2023.10.18 07:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第121回】 カエサル『ガリア戦記』(講談社学術文庫,1994年)・政治家の眼光と兵士達のまなざし中東情勢が厳しさを増すなかで、報道も比例して増えてきている。コメンテーターや論者の立ち位置はそれぞれだが、私個人としては、断片的に伝わりくる映像のなかに強い印象を受けたものがあった。それは、イスラエルのネタニヤフ首相が、地上戦に向けて集結を始めてい...
2023.08.21 07:25温故知新~今も昔も変わりなく~【第120回】 羽根田治『ドキュメント 単独行遭難』(ヤマケイ文庫,2012年)子供の頃、「登山遠足」が正直なところ好きになれなかった。山道を延々と登り続けるのが楽しいと思えなかったし、級友よりもペースが遅くなりがちで、先生たちから励まされるのが妙に嫌だった記憶がある。心の傷とまではいわないが、子供心にも登山は向かないと思い込むことになった。山を登るのが苦手...
2023.07.10 12:33温故知新~今も昔も変わりなく~【第119回】 石原敬浩『北極海 世界争奪戦が始まった』(PHP新書,2023年)北極海といわれて咄嗟にイメージできるものに何があるだろう。白色の氷と濃紺の海水のコントラストがどこまでも続く他に、脳裏に浮かび来るものは限られるように思う。個人的にはどちらかといえば抽象的な存在だった北極海で、いま何が起こっているのかを知らしめてくれる1冊を最近読んだ。その本は「...
2023.05.29 08:34温故知新~今も昔も変わりなく~【第118回】 山本七平『日本人の人生観』(講談社学術文庫,1978年)・山本七平と小室直樹の互いの評価これまでこの「読書録」で山本七平の作品は幾度か紹介した。山本七平の盟友であった小室直樹の作品も一度取り上げている。両者が互いのことを評している文があるが、これがユニークな代物で、山本は小室が著した「ソビエト帝国の崩壊」(光文社、1981年)の裏表紙...
2023.04.30 06:22温故知新~今も昔も変わりなく~【第117回】 小谷賢『日本インテリジェンス史~旧日本軍から公安、内調、NSCまで』(中公新書,2022年)・「墨家」の言葉とインテリジェンスの世界「墨守」するという言葉の源流となった墨子の思想に「故に曰く、神に治むる者は、衆人其の功を知らず。明に争う者は、衆人之れを知ると」というものがある。現代語にすると、「そこで昔から、物事を神妙の中に成し遂げた者は、人びとにその功績を知られること...
2023.03.29 10:35温故知新~今も昔も変わりなく~【第116回】 井伊直弼『茶湯一会集』(岩波文庫,2010 年)・乱世から治世へと変わりゆく武士戦乱の世から天下泰平となった徳川時代。武士たちの有り様も大きく変わっていた。教養が無くとも武芸で名を立てられた乱世ではなく、治世のなかで順応して生きていくために求められるものが変化した。ほぼ同時代、欧州の絶対王政などは常備軍と官僚制という区別や住み...
2023.02.21 09:48温故知新~今も昔も変わりなく~【第115回】 石光真清『城下の人~石光真清の手記』(中公文庫,1978年)孫子に「密なるかな密なるかな、間を用いざる所なし」という一文がある。軍事にとって諜報がどれほど大切かを語るこの一文は、間諜(スパイ)が収集した情報を、政治・軍事のトップが活用する次第を論ずる文脈のなかにある。孫子は情報活動・諜報工作に対して肯定的であり、戦略・作戦レベルにおいて重...
2023.02.06 08:00温故知新~今も昔も変わりなく~【第114回】 プラトン『パイドン』(岩田靖夫訳,岩波文庫,1998年)民衆裁判によって死刑を命じられたソクラテス。アテナイ人が大切にしていた神聖なお祭りの期間中、国に不浄を持ち込まないとの理由で暫し刑は延期されたのち執行された。民衆裁判では正々堂々と自らの信念を弁明したソクラテスは、刑の執行を待つ身となってから静かにその日が来るのを待ち続けた。弟子...