「孫子」第2回 『竹簡孫子入門』の「はじめに」

前回触れたように今回より河野収氏の『竹簡孫子入門』(大学教育社・1982年)のエッセンスと要約などを、同じく河野氏の研究論文なども参考にしながら行っていきたい。まず、同書は6章立てによって構成されており、第1章「兵法書「孫子」について」、第2章「目的論」、第3章「戦力論」、第4章「戦略論」、第5章「戦術論」、第6章「管理論」となっている。これは、「孫子」全13篇をはじめから原文・読み下し文・現代語訳と順番通りに表記し、それぞれ解説を入れていくオーソドックスな構成ではない。河野氏が長年にわたって「孫子」を研究していく過程で、13篇の構成や枠を打破し、小単位に分解した上で、新たに再構成を試みた結果、この章立てになったとしている。


第1章に先立って「はじめに」があるが簡潔に要約したい。なお、要約にあたっては読みやすさに配慮し構成なども入れ替えてまとめている。なお、いうまでもないが、以下の本文や要約がメインになるとはいえ、基本的に引用を除きパラフレーズをしており、加えて用語などもわかりやすいものに改めるなど工夫をしており本書のコピーではないことを記載しておく。


兵法書である「孫子」は、人間が社会で生存していくなかで起きる激烈悲惨な戦争を考察し、これに対するための方法について言及した書物である。しかしながら、それは戦場における戦術・戦技にだけ触れたものではなく、厳しい国際環境のなかで、国家が生存と繁栄を確保してゆくための哲学・戦略・戦術がつとめて簡潔な記述によって網羅されている。なお、「孫子」の特徴としては、いかに戦争を回避し生存と繁栄を達成できるかを第一義としている。


人類が幾度も絶滅するだけの核兵器を有する世界において、これまでのところは幸いにも核戦争の発生は抑えられてきたが、その抑止の下で様々な戦争が続いてきている。これらが全面核戦争へと至らないという絶対の保証はなく、この環境下において「孫子」を改めて学ぶ意味はある。


なお、「孫子」は、古代において依拠するべき根拠として扱われた占いや天文暦数などを積極的に排除し、合理性からの未来予測を重んずるといった特徴を持っている。同時に、過去の事例から安易な類推をすることも拒絶するスタンスを取り、未来に起こり得る事象・事態とは新しいものと捉える傾向が強い。「孫子」は人材マネジメントについても広く触れ、いわゆる「利害」だけでなく「業」といった概念に特徴があり、これは時代を超えて通じるものでもある(「業」については改めて触れたい)。


「孫子」は全部で13篇からなり、漢字にすると6千余字、日本語訳を通読するのにもさして時間は要しない。古典ではあるが、中国兵法書の最高峰として扱われ続けており、戦争指導書としてだけでなく、経営・ビジネス書としても重宝されており、これまでに多くの研究・解説書があるが、それらの大半は13篇を頭から読み進めていくものである。本書(『竹簡孫子入門』)ではその体裁は取らず、加えて、「孫子」の真髄を学び、良き知恵に転化し得る入門書としての効果を期待し、全篇のなかから、目的論、戦力論、戦略論、戦術論、管理論といった項目を立てて、それにあたる本文を抽出し要点を述べることにした。


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(本文は河野収氏『竹簡孫子入門』の要約を基本とし、読み下し文・訳文はオリジナルから引用しておりますが、それ以外の本文は全て新たに書き換えております。また、必要に応じて加筆修正、構造の組み換え、今日適切と思われる用語への変換を行っております。原著『竹簡孫子入門』のコピーとは異なります。)


筆者:西田陽一

1976年、北海道生まれ。(株)陽雄代表取締役・戦略コンサルタント・作家。

株式会社 陽雄

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