「孫子」第8回 第1章 兵法書「孫子」について(6)

第3節 その思想的背景 ②


前述した「孫子」の目的主義について触れたい。


「兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり」(計篇)

このように喝破した「孫子」は、戦争を遂行せずして目的を達成するのが最善であるという。孫武は、戦争は一度戦端が開かれると、それ自体が持つ性質によって本来の政治目的から逸脱してしまい、いつしか武力戦だけがエスカレーションしていくものだと踏まえていたと思われる。それ故に、政治目的を確立したならば、これをきちんと掌握して堅持し続けることの大切さを説く。


「夫れ、戦い勝ち、攻めて得るも、其の功を隨(おさ)めざる者は、凶なり」(火攻篇)
(訳:そもそも戦いに勝って攻め取っても、その政治的目的を達成しないならば、戦勝すらも凶である)


次に「孫子」の理想主義について触れたい。戦争が「死生の地、存亡の道」であるといった認識をベースに、事前の見積もりと計画準備を徹底的かつ周到に行うべきものだとする。孫武がどこか完全勝利を追求する情熱と気風を有していただろうことは先にも述べたが、その前提となる計画準備段階には、楽天的に過ぎるくらいの理想主義を現している。


「勝兵は、先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は、先ず戦いて而る後に勝ちを求む」(形篇)
(訳:勝利する軍隊は、事前に勝利を確実にしておいてから戦いを求めるが、敗北する軍隊は向こう見ずに戦いを始め、その中から勝利を求めようとする)


「利に合えば而(すなわ)ち動き、利に合わざれば而ち止まる」(九地篇)
(訳:有利な状況であれば行動を起こし、有利でなければやめる)


こうしたテキストなどには「孫子」の理想主義の側面が出ている。この通りに行動できるのならば、敗北を喫する可能性は少ないかもしれない。ただ、現実の戦争は、常にこのような理想的な状況で物事を遂行できるわけではない。それについて孫子は現実主義の観点からも別のアプローチをする。


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(本文は河野収氏『竹簡孫子入門』の要約を基本とし、読み下し文・訳文はオリジナルから引用しておりますが、それ以外の本文は全て新たに書き換えております。また、必要に応じて加筆修正、構造の組み換え、今日適切と思われる用語への変換を行っております。原著『竹簡孫子入門』のコピーとは異なります。)


筆者:西田陽一

1976年、北海道生まれ。(株)陽雄代表取締役・戦略コンサルタント・作家。

株式会社 陽雄

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