「孫子」第19回 第4章 「戦略論」(2)

道義外交の次に用いられる手段とし「孫子」は次のように言及する。


「故に、上兵は謀を伐つ、其の次は交を伐つ、其の次は兵を伐つ、其の下は城を攻む」(謀攻篇)
(訳:だから上策は敵の侵略又は抵抗の策謀を、その策謀の段階で破砕することである。次は敵の同盟関係を遮断して孤立させることである。次は敵の野戦軍を撃破することである。最下策は敵城を攻略することである)


これらのうち最初の2つ「伐謀」「伐交」が「不戦屈敵」のための手段となる。攻勢・防勢のいずれにせよ、軍事力を発動させようとする者は、そのための策謀(作戦計画)を持つことになる。したがって、これ自体を潰えさせてしまえば、相手はその策謀の意志を持てずに屈服する。それを可能とするには相手の意志に対して直接影響を与えるやり方と、相手が持つ軍事的能力に影響を与えるやり方に分けられる。


前者については、「利、害、業」を相手に十分に知らしめるもので、侵略、防衛といった行動をとらずにこちらの要求を呑むのが「有利」であり、相手側は、そうしなければ「実害」があまりにも大きくなるといった結論に至れば屈服する。また、相手が侵略、防衛といったこと以上に、優先するべき「事業」を認識するように仕向ければ、そちらに多くのリソースを割くことで、こちらの政治目的や要求を妥協して受け入れる可能性が高まる。後者の軍事的能力に影響を与えるとは、たとえば平時から積極的に軍縮や軍備管理などの条約やルールを成立させて軍事力を制限することや、他には相手の軍事力に必要な資源などを外交や通商の力も動員しその交易や供給を鈍らせてしまうなどである。


「伐交」とは、敵国と同盟関係にある他国にあらゆる外交手段でアプローチをかけ、その関係を清算させて敵国を孤立させていくことである。これは他国の意志を変えさせるべく努力をすることになるが、「孫子」はその在り方を次の一文で表現する。


「諸侯を屈する者は害を以てし、諸侯を役する者は業を以てし、諸侯を趨(はし)らす者は利を以てす」(九変篇)


敵国がそれまで保っていた同盟を失い、多数の国が存在しているなかで孤立を深めてしまえば、相当な軍事力や強硬な意志を持たない限り戦争へと訴えることが難しくなる。このように敵国の外堀を埋めることで、自国は戦わずに政治目的を達成できる公算が高まることになる。


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(本文は河野収氏『竹簡孫子入門』の要約を基本とし、読み下し文・訳文はオリジナルから引用しておりますが、それ以外の本文は全て新たに書き換えております。また、必要に応じて加筆修正、構造の組み換え、今日適切と思われる用語への変換を行っております。原著『竹簡孫子入門』のコピーとは異なります。)


筆者:西田陽一

1976年、北海道生まれ。(株)陽雄代表取締役・戦略コンサルタント・作家。

株式会社 陽雄

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