「孫子」第25回 第5章 「戦術論」(4)

第5節 致人而不致於人-主導権の確保


戦術の基本は「優勝劣敗の法則」によく従うことである。これは、味方と敵が戦闘を交える際に、味方の戦力を優にし、敵のそれを劣の状態になるよう創出できれば勝利を収められることを意味する。なお、この優劣とは戦場において相対的なものであり、味方が5割程度の戦力でも、敵が4割程度などであれば、味方は優位となるし、双方が5割程度で拮抗していれば、味方は有形無形の戦力を動員して敵に優に立つべく努めなければならない。


優劣は相対的なものではあるが、それを戦場で競う以前に戦力の絶対量が高い方がより有利に進められるのは事実であり、それは平時からの防衛政策や大戦略に紐づいてくる。ただ、絶対量で劣っていても、戦場において相対的に優位に立てるようにベストを尽くす考えもあり、軍事戦略、作戦戦略、戦術といった領域における努力となる。これは主に戦場において作戦構想や部隊の指揮統制、機動などを巧みにして、主導権を敵に対して握り続けて相対的に優位を得ようとするものだ。


「故に、善く戦う者は、人を致して、人に致されず」(実虚篇)
(訳:だから、戦いの巧みな者は、主導権をとって、敵を思いのままに操り、敵の思うようにはされない)


この「人を致す」を可能にするため、孫武は敵部隊の士気や気勢、指揮官の心理などを積極的に掌握して攻勢のタイミングに活かすことを提起する。


「故に三軍には気を奪う可く、将軍には心を奪う可し」(軍争篇)
(訳:だから、敵の軍隊については、その気勢を奪うべきであり、指揮官については、その心を奪うべきである)


部隊が機械ではなく人間で構成されている以上、常に一定の士気や気勢を保ち続けていることはなく、それは時間や状況の変化によって高低が出てくる。敵の士気や気勢が高いときに正面攻撃に訴える必要はなく、それが低下したタイミングを狙う在り方を説く。


「朝の気は鋭く、昼の気は惰り、暮れの気は帰る。故に、善く兵を用うる者は、其の鋭気を避けて、其の惰帰を撃つ。此れ、気を治むる者なり」(軍争篇)
(訳:朝の気は鋭く、昼の気は衰え、夕方の気は尽き果てる。だから戦いの巧みな者は、敵の鋭い気勢を避け、敵の気勢が衰え尽きた所を狙って撃つのである。これが、「気」を利用して主動権をとる方法である)


なお、これには味方の士気や気勢の状態も常に把握し、相対的な優劣を判断して実行しなければならない。これを見極める指揮官自身が冷静な知性を保っていることが条件となる。


「治を以て乱を待ち、静を以て譁を待つ。此れ、心を治むる者なり」(軍争篇)
(訳:我は整い治まった状態で、敵の混乱した状態にあたり、我の冷静な状態で、敵の騒がしい状態にあたる。これが、「心」の動きを利用して主動権をとる方法である)


***

(本文は河野収氏『竹簡孫子入門』の要約を基本とし、読み下し文・訳文はオリジナルから引用しておりますが、それ以外の本文は全て新たに書き換えております。また、必要に応じて加筆修正、構造の組み換え、今日適切と思われる用語への変換を行っております。原著『竹簡孫子入門』のコピーとは異なります。)


筆者:西田陽一

1976年、北海道生まれ。(株)陽雄代表取締役・戦略コンサルタント・作家。

株式会社 陽雄

~ 誠実に対話を行い 真剣に戦略を考え 目的の達成へ繋ぐ ~ We are committed to … Frame the scheme by a "back and forth" dialogue Invite participants in the strategic timing Advance the objective for your further success

0コメント

  • 1000 / 1000