論文「クラウゼヴィッツ『戦争論』でウクライナ戦争を考える」(学術誌『戦略研究』第33号掲載、査読審査済)
論文主旨
本論文は、クラウゼヴィッツ『戦争論』の理論枠組みを手がかりに、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻を分析したものである。戦争を「政治の延長」と捉える古典的視点を用いることで、日々変化する戦況の背後に潜む本質的な構造を照射しようとする試みである。
まず「絶対戦争」と「現実の戦争」という二つの概念を導入し、ウクライナ戦争を位置づけた。米国・NATOとロシアの直接衝突が回避されている現状は政治的制約の下にある「現実の戦争」にあたるが、ロシアの歴史的認識や安全保障観を背景にした政治目的は、戦争を「絶対戦争」へと接近させる危険を孕んでいると指摘する。
続いて、政治目的と軍事的行動の関係を検討した。侵攻初期の「斬首作戦」失敗後、ロシアは戦略を東部・南部にシフトしたが、これは『戦争論』が説く通り、戦争の進行によって政治目的そのものが修正を迫られる典型例である。また、軍事的行動が成果を上げられない場合、政治目的が実現困難となり、戦争の持続性に影響を及ぼすことも浮き彫りになった。
さらに「三位一体」(国民・軍隊・政府)の視点から、ウクライナとロシアの戦争体制を比較した。ウクライナでは国民の強固な抵抗意志が軍隊と政府を支え、一体性を強めているのに対し、ロシアでは動員や兵站の問題が露呈し、三位一体の歪みが戦争遂行に影を落としている。
結論として、本戦争は「現実の戦争」として政治に制御されつつも、政治目的の性質次第では「絶対戦争」へと傾斜する危うさを抱えていることを示した。クラウゼヴィッツの理論を通して浮かび上がるのは、戦争の不確実性と政治・軍事の相互作用の重要性であり、この古典的知見は現代の戦争理解にも依然として有効であると論じている。
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