噛めば噛むほど味が出る【孫子・第2回】

「ところでY君は、『孫子』を読むのにどのくらいの時間がかかった?」

「せいぜい2~3時間程度だったと思います」

「ふつうに読めばそのくらいだろうね。孫子は結論めいたことを単純淡泊に書いているだけで、具体的事例にはほとんど言及していないからね。しかし、僕がいま仮に『孫子』を通読したら、正直2~3日必要となる」

「どういうことでしょうか」


「最初から読み進めていくと、古今東西の事例が頭に浮かんでは消える。そのたびに手が止まるので、読み終えるのに結局そのくらいの時間がかかってしまうのだよ。まあ、だからこそ、飽きもせずに何度も読み返すことができる。いわば古典というものの醍醐味だね」

「噛めば噛むほど味が出るスルメのようですね」

「そんなところだな。そうでなければ古今東西、多忙をきわめるのが常のリーダーたちが読む価値など認めるわけがないからね。もうとっくにこの世から消え失せていたはずだ。現在でも、欧米の軍人、政治家、経営者などと戦略について語り合うと、一度は必ず『孫子』が話題にのぼる」


「やはりそういうものですか。一体どのように読めばよいのでしょうか?」

「まず、現代にあったテーマをもって読んでいくことだね。たとえば、『情報(インテリジェンス)』『戦略』『戦術』『マネジメント』『人事』『リーダーシップ』などの項目を自分の頭のなかにつくる。今日は『情報』というテーマで読み込んで、明日は『リーダーシップ』というテーマで読んでみようというようなカタチで、主体的に切り口を決めてしまうんだ。もちろん、同時に複数のテーマをもって読んでもかまわない」

「なるほど・・・そんな読み方があるんですね」


「『孫子』は物語やマニュアルではないし、どこから読み始めてもよいからね。読み方によって、13篇それぞれが独立しているようにも、繋がっているようにも読める魅力がある。極端なはなし、テーマをきめて、適当にページを開いて読むのでもよろしい」

「う~ん。本やテキストは最初から読むと思い込んでいる僕には斬新なやり方です」


「ただし、さっきもいったように『孫子』は簡潔な書き方でケースタディがないからね、そこが問題となる」


(第3回につづく)

※この対談はフィクションです。

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筆者:西田陽一

 1976年生まれ。(株)陽雄代表取締役社長。作家。「御宙塾」代表。

株式会社 陽雄

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