「情報」の観点から孫子を読む【孫子・第4回】
「今日のところは・・・そうだな。たとえば、『情報』という切り口から考えてみようか。孫子は情報という観点でどのようなことを言っており、それが具体的な事例としてどんなケースにあてはまり、そしてどうするべきなのかをとりあげてみよう」
「よろしくお願いします」
「一般によくいわれることなんだが、『孫子』は兵法書、軍事古典にはめずらしく『情報』の価値について言及している。それが一番凝縮されているといわれるのが、『孫子』第12篇の『用間篇』だ。ちなみに、『情報』という日本語には、英語の『インフォメーション』も『インテリジェンス』もふくまれる。留学していたY君にいまさらいうまでもないけどね」
「衛星でもスパイでも、あらゆる手段を通じて集められ、手を加えていないものが『インフォメーション』、それを分析、加工したものが『インテリジェンス』という理解でよいでしょうか」
「そんな感じでいいと思う。孫子は情報という言葉をダイレクトにはつかっていないけれども、この違いは意識して読んでいくことが必要になるね。さて、『孫子』の情報論の肝ともいえる文言を一つ引っ張り出してみようか」
Y君はおもむろに「孫子」をペラペラとめくりはじめた。見ると、赤黄青とカラフルな付箋が本からニョキニョキと飛び出している。なかなか緻密を好む人柄らしい。
このスキに、私はコーヒーを一口ごくりとのんだ。
「そうですね。やはり次の一文でしょうか?故に、唯明君賢将の、能く上智を以て間(かん)と為す者のみ、必ず大功を成す。此れ、兵の要にして、三軍の恃みて動くところなり
(和訳 このように、諜報工作員として最高の知性を有する優れた人物を使いこなすことができる聡明な君主や有能な将軍だけが、戦争特に武力戦という大事業を確実に遂行することができるのである。諜報活動は、戦争特に武力戦の要をなすものである。軍はこれによって、一つひとつの行動〈作戦・用兵)を効果的に進めることができるのである)」
「さすがに良い一文を引用してくるね。慧眼の至りだ」
「ありがとうございます」
「オペレーションを行う上で情報が大切であることはだれでも理解しやすいが、これがなかなか『言うは易く行うは難し』というやつでね。人間、イケイケドンドンのとき、特に勝ち進んでいるときなどは情報を軽視しがちになる」
「たとえばどのようなことが考えられますか?」
「『失敗の本質』で言えば、ミッドウェー海戦などがその例にあてはまるのではないだろうか」
(第5回につづく)
※この対談はフィクションです。
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筆者:西田陽一
1976年生まれ。(株)陽雄代表取締役社長。作家。「御宙塾」代表。
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