孫子の情報論~日本はなぜ、ミッドウェー海戦に負けたのか【孫子・第5回】

「オペレーションを行う上で情報が大切であることは言うまでもないが、人間、特に勝ち進んでいるときなどは情報を軽視しがちになる。『失敗の本質』で言えば、ミッドウェー海戦などがその例にあてはまるのではないだろうか。この戦いが太平洋戦争のなかでどのような位置づけにあるかは知っているね」

「はい。昭和16年12月の真珠湾攻撃以降、勝ち進んでいた日本軍が、翌年にミッドウェー島を攻略し、同時にアメリカ太平洋艦隊を沈めようとして、初めて敗北を喫した戦い。

確か空母を何隻も失い、ベテランパイロットも多く失った戦いですね」


「そう。この戦い以降、日本は米軍の反撃を食らって徐々に苦戦を強いられていく。このミッドウェー海戦はいろんな問題をはらんでいるのだけど、情報という観点にしぼって考えてみると、二つの問題があげられる。ひとつは戦う前から、日本軍の暗号がすでに解読されていたこと。どのくらいの規模の日本艦隊が、どのような計画をもってミッドウェーに向かってくるか、敵は事前にわかっていたわけだ。もうひとつは、戦いに際して、日本軍は索敵、つまりはレーダーが未発達な時代、敵がどこにいるかを探すために、艦隊の周囲に四方八方に偵察機を飛ばして情報をつかむこと、これを思い切り手抜きしたことだ」

「後知恵でいうのはずるいかもしれませんが、なぜこのようなことがおきたのでしょうか。つまり、敵が暗号を見破る可能性、それから、戦いに際して徹底的に情報収集することは、どうしても初歩的なことに思えてしまうのですが・・・」

「そのとおりだね。破られない無敵の暗号など存在するわけもないから、暗号について現場ができることは限られる。けれども、索敵の失敗はやはり現場の責任者に問題があるね。この戦いを実質的に指揮した南雲長官(第一機動艦隊司令官南雲忠一中将)は、戦う前から思い込みと予断を持っていたからね」

「どのような思い込みでしょうか?」


「これは『失敗の本質』に書かれているけども、長官は『米海軍の士気は低調であり、したがって米空母機動部隊の出現は当面なく、米空母が付近海域に出現してくるのは我が軍によるミッドウェー島の占領後であろう』。そうつよく思い込んでいたようだ。つまり、島を攻略するのに艦隊はいないという思い込みだね」

「つまりはこうした思い込みが情報収集の必要性を軽視することにつながり、さらに情報分析やそこから考えられることも含めていい加減にしてしまったということですね。それで、日本軍は取り返しができないくらい損害を被ってしまった・・・」


「そう。だからこそ孫子は、将軍が思い込みや偏見を排除して、常に冷静に情報を扱い、それをもとに判断できる資質を要求したわけだ。『聖智にあらざれば、間を用いること能わず』(深い思慮や洞察力がないものは諜報を扱うことはできない)とね」


(第6回につづく)

※この対談はフィクションです。

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筆者:西田陽一

 1976年生まれ。(株)陽雄代表取締役社長。作家。「御宙塾」代表。

株式会社 陽雄

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