名将・山口多聞に学ぶリーダーシップ【孫子・第9回】

【前回までのあらすじ】

大学の後輩であるY君に請われ、『孫子』についてレクチャーをすることになった「私」。商社での仕事に『孫子』のエッセンスを活かしたいというY君に、『孫子』の情報論をレクチャーする。

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「たとえばトップに大切な情報が上がるように、日本にも国家安全保障局(NSS)が内閣のもと組織されている。ここにはインテリジェンスに関わる職員が、外務省、警察庁、防衛省などから出向しているんだ。みなそれぞれの分野のスペシャリストと呼べる人たちで、時々刻々と変化する情勢や情報に精通しているようだ。でも同時に、学者などが中心になって形成する顧問会議というものもあるんだ。」

「つまり現役バリバリの官僚と顧問の学者たちが、一緒にインテリジェンス分析の仕事をしているということですか」


「常に同じテーブルでという意味ではないけどね。まあ相互に補完するという構図かな。官僚は政策に専門的な知見があり、多くの情報を持っているけれども、その宿命上、比較的短いスパンで考える傾向がある。一方で、たとえば歴史学者などは、長期的な視点からみることで助言できることもあるからね。うまくいけば、複数の視座で分析していくことができる」

「独断や偏見を最大限排していくための知恵ということですね」

「そうだね」

「いずれにしても、スパイやスタッフからもたらされる情報の分析まで、すべてを一人のリーダーが自ら行うことは難しいですね」

「そう。一人が万能戦士であることを求めてはいけない。そんなことを組織が期待してはいけないのだ。人間一人のできることは知れているということをわきまえたうえで、リーダーは普段からインテリジェンスに関心をもちつつ、スタッフがもたらす情報や助言を謙虚に受け止めて、ときに果敢に決断をしていかなければならない。孫子がいうところの『聖智』とはそうした部分も含んでいるといえる」


「先ほど例に挙がったミッドウェー海戦の中では、そのようなリーダーがいたのでしょうか」

「良い質問だね。おそらく山口多聞という将軍がこれにあてはまるかもしれないな」

「どのような活躍をした人でしたでしょうか」

「名将として評価されることが一般的だね。先ほどもふれたように、暗号を読まれ、偵察も手を抜いた結果、日本はあの戦いで正規空母4隻を失うことになった。でも、日本もアメリカに一矢報いて空母ヨークタウンを沈めることができた。この戦いの指揮を執ったのが山口多聞少将(後に中将)なんだ」

「そのような人がいたのですか」


「そう。日本軍はミッドウェーの初戦で空母、蒼龍、赤城、加賀などの3隻が戦闘不能に陥り、唯一、山口多聞が率いる第二航空戦隊の空母飛龍だけがのこることになった。この時点でアメリカの空母はほとんど無傷だから、弱気になってもおかしくはないけど、山口は、『我レ今ヨリ航空戦ノ指揮ヲトル』と残存部隊に伝えて全力で反撃に出たわけだ。その結果として、飛龍も失うことになったけれど、ヨークタウンを沈めたわけだ」


(第10回につづく)

※この対談はフィクションです。

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筆者:西田陽一

1976年生まれ。(株)陽雄代表取締役社長。作家。「御宙塾」代表。

株式会社 陽雄

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