温故知新~今も昔も変わりなく~【第8回】 武石彰夫 訳『今昔物語集』人の妻悪霊と成り・・(講談社学術文庫,2016年)

「昔、昔」で始まるのは「まんが日本むかし話」なら、「今は昔」で始まるのが今昔物語集だ。平安末期に説話(物語)を集めて成立したとされる今昔物語集は、全31巻(一部欠本)の大部である。天竺(インド)、震旦(中国)、本朝(日本)の三部で構成されており、特に前半は有難い仏教説話がこんもりとあり、だから最初から読むべきだ・・などとはまったく言わない。筆者としては面白いのは本朝(日本)の説話(第22巻以降)あたりからだと思う。

宮中の真面目な話もあれば、相撲取り、怪力女、名医などにまつわるものもあり、読んでいるうちに生きることの可笑しみと哀しみが沸き起こる。なかでも、安倍晴明などの陰陽師の活躍を描いた作品もあるが、これなどなかなか味わい深い。


「今は昔、〇〇(空白)というものがいた。長年つれそった妻を捨て去ってしまった。妻は、このことをたいへんうらんでなげき悲しんだが、思いがつのって病気になり、いく月か苦しんだすえ思いのはてに死んでしまった。その女は、父母もすでになく、身寄りもなかったので、死んだ亡骸を始末して葬ることもしないで、そのまま家のなかに手もつけずにおかれていたが、髪もぬけおちることなく、生きているときのようにふさふさしていた。・・隣の家の人が、戸の隙間からのぞいてみると・・真っ青に光るものがあった。・・となりの人はあまりの恐ろしさに逃げまどっていた。さて、その夫であった者は、このことをききつけて、なかば死にそうな気持ちがして、「どうしたら、このたたりから、逃れられるだろうか。・・きっとこの女に取り殺されるに違いない」と恐れ慄いて00という陰陽師のところへいって、・・陰陽師は「このことは、ふつうではとてものがれることのできないことでございます。・・そうはいっても・・なんとか工夫をしてみましょう。ただし、そのために、非常に恐ろしいことなどもしなければなりません。その覚悟を・・」日が沈むころ、陰陽師は、かの死人の置いてある家に、この男を連れて行った。・・陰陽師は、男をちょうど馬に乗るように死人の上にまたがらせた。そして、その死人の髪をしっかりとにぎらせ、「絶対にはなしてはなりませんよ。・・わたしが、ここにもどってくるまで・・それを我慢しているのですぞ」といいのこして・・出て行ってしまった。・・そのうち夜になった。・・この死人が「ああ、重たい」と言ったかと思うと、急に立ち上がって、「よしあの男をさがしてやるぞ」と言って外に走り出ていった。・・男にしてみれば恐ろしいどころのさわぎではなかった。・・必死の思いで髪だけを握りしめて、死人の背中にまたがっていた、一番鶏が鳴いて、死人もそのまま声を出さなくなった。・・恐怖の一夜があけて、朝になり陰陽師がやってきて、「・・髪はずっと放さないでいましたか」と聞いたので、男は・・放さなかったと答えた。すると、陰陽師は・・死人にむかって・・祈祷をしてから「これでもうよろしい、さあ、一緒に帰りましょう・・もう決して、なにもこわがることはありません・・」・・男は、泣く泣く陰陽師を拝むばかりであった。そののち、男はなんの祟りもうけることなく無事に長生きしたのであった」(第24巻第20)


ところで、この陰陽師さん、男を死人のところに連れてかなくても、最初から祈祷でどうにかできたのでは?でも、男にチビルくらいに怖い思いをさせ、反省させたのだとすれば、なかなか人がワルイ。結局、この説話が仄めかすものは悪因悪果、因果応報の学びなのだろう。

  

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筆者:西田陽一

1976年、北海道生まれ。(株)陽雄代表取締役・戦略コンサルタント・作家。

株式会社 陽雄

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