論語読みの論語知らず【第83回】 「文を以て友を会し、友を以て仁を輔く」

リーゼント刑事こと秋山博康さん。テレビ番組「警察24時」などで多くの人に知られる徳島県警の名物刑事だった。今年の3月末で42年間の勤務を終えて定年退職された。最後のポストは県警本部生活安全部生活環境課次長、最終階級は警部で退官されている。実のところ、私はリーゼント刑事のファンである。ここ数年の間は、徳島県警の人事が発表されるたびにその動向を確認していた。(徳島県警がどのくらいの器量をもっているのかをみていた)


秋山さんは10歳のとき自宅で就寝中に泥棒に入られ底知れぬ恐怖を覚え、そのとき秋山少年に接した刑事が「必ず捕まえてやる!」と約束をしてくれた。秋山少年はこれをきっかけに自分も刑事になりたいと思い、秋山さんの一生は決まったのだ。中学、高校で空手や柔道に励み、18歳で徳島県警に入り巡査となった。1年の交番勤務、2年の機動隊勤務などを経て23歳で念願の刑事になった。ここから30年以上、強盗、殺人、放火、誘拐、立てこもりなどの凶悪犯を扱う捜査一課を中心に勤務して刑事人生を歩んできた。特に、「おい!小池」の指名手配ポスターで有名な「徳島・淡路父子放火殺人事件」の捜査活動に長らく携わり、これがきっかけで現職中にテレビ出演なども応じるようになった。秋山さんの刑事としての信条は「刑事は被害者の代理人」であり、被害者の無念を晴らすべく全身全霊で捜査にあたる姿勢がよく取り上げられていた。


これまでのところ、私は秋山さんに直接お会いしたことはない。ただ、メディアを通してこの人の存在を知ったのは20年近く前だと記憶している。当時、直観的なものだがこの人は刑事としても、そして正義感もホンモノだなと思って、爾来、注目していたのだ。先月には3月末で退職されることがネットニュースで取り上げられており、私は自分が定年退職するわけでもないのに妙に感慨深かったのだ。真っすぐに歩んできた刑事が、真っすぐのまま生きて退職できることが嬉しかった。もちろん、これまでの刑事人生は生易しいものではなく、その本当のご苦労は当人しか分からない。


退職後、リーゼント刑事はどうするのだろうか・・私は余計なことを心配していた。色々とお声もかかったようであったが、それらをすべてお断りしたとも仄聞した。そして、4月になると「リーゼント刑事」がYouTubeで新たに復活したのだ。「おはようさん!リーゼント刑事こと秋山です!このたびYouTubeを始めました!よろしくです!・・」。秋山さんの第二のキャリアは犯罪評論家としてメディアを通じての防犯活動に勤しまれるとのことだ。60歳で引退したあとは、のんびりすることも一時考えたようだが、秋山さんが私淑してやまない矢沢永吉さんの「自分は60歳になってもロックとしてやるんだ。星になるんだ」との言葉に触発されて、退職した次の日には徳島から東京へと上京されたとのことだ。


私はリーゼント刑事のYouTubeチャンネルを鑑賞させてもらっている。中でもリモートで一般の方とリーゼント刑事が飲み会をしながら語り合う回があるのだが、これが秋山さんの人柄がにじみ出ている。いろいろな質問に優しく丁寧に、そして真っすぐに答えていく姿は素晴らしかった。刑事が天職であったと素直に語り、そして私利私欲は持たずに捜査に一生懸命に励んだことを退職したあとで正々堂々と語れる生き方は誰しもがマネできるわけではないだろうが、だからこそ人を惹きつけてやまない。秋山さんらしいなと思わせるエピソードがあった。それは一般の方から家族環境を聞かれていたときのことだ。秋山さんは看護師をされている丁度一回り年下の奥様がいて、子供はいないといわれたあとで、自らのその馴れ初めへと話を進めた。刑事としての職務上、加害者、被害者が病院に運ばれた時などに事情聴取のなかで奥様と知り合ったといわれ、秋山さんが一方的にホレて、一月後に食事に誘ったとのことだ。そして、そのデート初回の食事で結婚を申し込んでいる。


さて、退職されて徳島で過ごされるのであれば難しいが、上京されてきたとなれば話は別だ。

是非ともこれを機にご縁をもらえるようにしたい。そして、厚かましいことは承知で、できれば友誼を交わせるようになれたらと思っている。もちろん、こちらが尊敬を申し上げる友誼だ。そんなことを考えながらも、あつかましくも論語の一文が思いだしている。


「曾子曰く、君子は文を以て友を会し、友を以て仁を輔く」(顔淵篇12-24)


【現代語訳】 

曾先生の教え。教養人は、学芸を通じて友人と交わる。その友誼によって、おたがいに人格を高めることを助け合う(加地伸行訳)


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筆者:西田陽一

1976年、北海道生まれ。(株)陽雄代表取締役・戦略コンサルタント・作家。

株式会社 陽雄

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