論語読みの論語知らず【第106回】 「保守に立つ側と培われてきた文化」

・新しく浮上してきた「論点」としての「外国人」問題

真夏の参議院議員選挙に向けて街角で候補者たちの演説が目にとまるようになった。この国の外も内もすでに安全とはいえなくなっている状況を考えると大切な選挙となる。経済や財政、安全保障から暮らし向きの問題まで論点は多くあるが、その中でも錯綜と混線を重ねている一つが「外国人」というキーワードを巡る問題だろう。政党によって外国人を受け入れることへの態度や温度感に違いがあり、「違法外国人ゼロ」、「多文化共生社会」、「日本人ファースト」、「移民政策の是正」などの言葉が頻繁に行きかっている。そして、これに相乗りするかのようにネットでは煽情的な動画が多く製造拡散もされており、それに対する諸々の反応がある。


・法制度や法秩序を守ることだけが問題の根っこなのか

法治国家である以上は不法・違法状態を放置し続けることは論外ではあるのでこれについては是正をされなければならない(もちろん、民意によって法律自体が変えられて現状を合法・適法とする選択肢もあるだろう)。ただ、実のところ諸々の反応の背景には、ルールやマナー、法制度や法秩序を守るといった問題だけでなく、この国において何が守られるべきかといった部分に根っこが至っているのかとも思う。外国人の問題と絡めて一部の政党が唱える「多文化共生」なる言葉や、その一般的な定義とされる「異なる国籍や民族の人々が互いの文化的な違いを尊重し、対等な関係を築きながら地域社会の一員として共に生きていくこと」という表現も結構ではある。他方では、この国の長い歩みの中で培われてきた文化が相応のパワーを持っていることもまた事実である(日本は長い時間をかけて外来の文化を独自のものへと変えてきた)。これが近年急速に持ち込まれている外国文化に対しての違いについては尊重できるだろうが、文化的な意味合いで対等かといえば注意が必要だろう(実のところ「多文化共生」の定義の文脈の意味は取りにくい。法的な意味だけの対等を述べているのかも判然としない。長い歩みを無視してあらゆる対等を急速に求めることまで含まれるならば、それは「多文化共生」よりも「多文化強制」に近いのではないか)。


・保守の立場が持ち得る文化の格式

「外国人」の問題(外国文化の問題)に対する諸々の感情的な反応をみていて感ずるのは、本来「保守」に立つ側はこの国が長らく培ってきた文化をきちんとした格式をもって応じることができる強みを持っているということだ(この点、いわゆる「リベラル」に立つ側は相対的には弱いだろう)。もっとも、保守に立つ側が文化の格式を用いるためには、表面的な知識や理解だけではなくて、日々の生活の中で時間をかけて培い素養として身に着けていく作業が大切になるだろう。この点をクリアできれば保守の側はまだまだ「横綱相撲」ができるはずでもあるし、煽情的な動画にいちいち感情的な共鳴や反応を示さなくてもよいとも思う。この国が長く培ってきた文化はときに大いなる「戦力」にもなる(戦力というと物騒な表現だと思われるかもしれないが、これは直接戦うためだけの力を示すわけではない。「戦わずして勝つ」ための淵源にもなる)。そういえば、『論語』に次のような言葉があった。


子曰く 人にして不仁ならば、礼を如何せん。人にして不仁ならば、楽を如何せん。(八佾3-3)

【現代語訳】
老先生の教え。人間としてだめであるならば、その人が、学問だの、文化だと、といっても始まらない(加地伸行訳)


孔子のこの言葉を裏返せば、文化を素養として人間を磨きなさいということでもあるのだろう。少し話は逸れるが、この国が1300年以上続けてきた文化の一大事業ともいえる伊勢神宮の第六十三回「式年遷宮」が今年より始まった。これより九年ほどの歳月をかけて三十三もの祭典や儀式が行われていく。それぞれの地域で行われる祭典にそこに住まう人々が参加をするし、真摯に崇敬の気持ちを表す感動的な場面が多くある。そして、これらが少なくとも外国人だから、外国文化の人だからという理由だけで排外されたりもしない。受け入れる側は長く培われてきた文化の格式を、何ら萎縮することなく正々堂々と発揮すれば良く、それはとても大きなソフトパワーとなる。


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筆者:西田陽一

1976年、北海道生まれ。(株)陽雄代表取締役・戦略コンサルタント・作家。

株式会社 陽雄

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