温故知新~今も昔も変わりなく~【第2回】 『書経』命運を尽きさせて・・

「悪いことをしたら、天から見放されるよ」

・・・子供にいいきかせるような構図だ。そして古くに人間が書き記した書物にはそうしたものがよくみられる。四書五経のひとつで中国最古の歴史書である「書経」(尚書)もそうした部分がある。ちなみに四書は「論語」「大学」「中庸」「孟子」、五経は「易経」「書経」「詩経」「礼記」「春秋」となる。

一応は武士の基本教養とされているが、江戸時代でも論語はともかく、五経まで真面目に読み込んだのは案外少ないらしい。ゆえに現代ではなおさらにマイナーな存在だろう。ただ、よく知られた古代中国の逸話などは「書経」あたりが元ネタであることが多い。この「書経」では、殷(商)王朝の最後の王である紂(ちゅう)は、残忍で華美を好む人物として描かれている。


「今、商王受(紂)は、上天を敬わず、下民に災いを下し、酒に酔いしれ、女色に狂って、勝手気ままに暴虐を行い、人を罪するにはその一族までも連累さえ、官吏を任用するには気に入りの家柄のものだけを取り立てている。また、宮殿・高楼・大池を造営し、華美な衣服を整えて、汝ら万民の生活を害っている。その上、忠良な臣下を焼き殺し、身ごもっている婦の腹をさくことまでしている」(「周書」・秦誓上第二十七より)


このような日々を紂王が過ごす一方で、殷よりも西に勃興した周の国の文王が周辺の輿望をあつめ、殷にたいして圧迫を開始する。紂王の臣下があわてて諫める。

「「天はもうわが殷の命運を尽きさせてしまいました。・・・王が遊楽に度を過ごされ、自分から断絶なさったのです。されば天はわが殷を見棄てられ、国民は安らかに生活することができず、天から与えられた生命を楽しむこともできず、・・今やわが人民は殷王国の滅亡を願わないものはありません。“天はなんで厳罰をお下しにならないのか、征伐の大命が来ないのか”と言っています。今や、王は、いったい、如何なされますか」王はこれを聞いて、『ああ、わしは生まれながらに大命を天から得ているではないかと、無反省に答えた」(「商書」第四より)


その後、周の武王が立ち上がり、軍を集めて殷を亡ぼす道理を宣言し打倒することになる。

「天には明白な道があり、その法則は誰でも知っている。しかるに今、商王受(紂)は、五常をないがしろにし、怠りすさんで神々を敬わず、自分から天命を断絶し、人民と怨みを構えている。・・・上帝は受の行いをお認めにならず、たちまちにこの滅亡を下されたのだ。

そなたたちは倦まずたゆまずに勉めて予一人の命令に従って、天の命令に従って、天の罰を執行せよ」(「周書」秦誓下第二十九より)


さて、これらの書経の内容が史実として信頼しえるかというと実のところ疑わしいところばかりなのだ。遺跡から発掘される甲骨文字などによれば、紂王は、実は祖先崇拝などのお祭りを厳格に行っていたとの記録もある。故に紂王を悪徳の君主に仕立てる必要があった儒家が書経を創作したにすぎないという見方もある。ここで史実・史料的価値云々は論じない。ただ、「悪いことをしたら、天から見放されるよ」という考えを規範的価値として創作しそれを必死に守り抜いた理由になにか一点の純なものを見出せるようにも思うのだ。


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筆者:西田陽一

1976年、北海道生まれ。(株)陽雄代表取締役・戦略コンサルタント・作家。

株式会社 陽雄

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