論語読みの論語知らず【第24回】「和して同ぜず」

日光東照宮の陽明門にある12本の柱のうち1本が逆さま(逆柱)になっていることはよく知られている。「満つれば、欠ける」という考えがその根底にあったともいわれる。すべてを同じくして、それでもって完成したものとすれば、そこから衰退がはじまることへの畏れがあったのだろう。あらゆるものを同じカタチで染め上げる同調圧力が強く働く世界では、カタチの違う異分子は存在が難しく淘汰されるかもしれない。ただ、異分子であってもしっかりと立ち、身を保つことを当為とし、なすべきことを恐れるなと仄めかす一文が論語にある。


「子曰く、君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」(子路篇13-23)


【現代語訳】

老先生の教え。教養人は、和合はするが雷同はしない。知識人は、雷同はするが和合はしない(加地伸行訳)


なお、「和合」とは交じり合うが同一になるわけでなく、「雷同」とは交じり合ううちに同一になるといったニュアンスで解したい。たとえば、同じ理念や目的のために何らかの組織がつくられて、ルールを厳格に定め、それにもとづいて行動や所作なども徹底的に画一化する。はた目からはそれはなんとも窮屈そうに思うが、内部のメンバーには独特のプライドや美意識、そして陶酔感をもたらすことがある。そうしたものが365日24時間すべてに浸透してしまえば慣習となりそれで組織が維持される。

さらには本来無視しえないはずの外部環境(世界)に対して意識を「鎖国」してしまえば、もはやそこには健全な競争原理や批判などが機能しなくなる。意外に聞こえるかもしれないが、普段から市場原理に翻弄される民間企業と比べて、現在進行形で戦争をしていない平時の軍事組織はこうしたドツボにはまりやすいともいわれる。旧日本軍がこうした傾向をつよくもっていたという手厳しい意見がある。ある文を引用したい。

「彼ら(陸海軍人をさす)は、思索せず、読書せず、上級者となるに従って反駁する人もなく、批判を受ける機会もなく、式場の御神体となり、権威の偶像となって温室の裡に保護された。永き平和時代には上官の一言一句はなんら抵抗を受けず実現しても、一旦戦場となれば敵軍の意思は最後の段階迄実力を以て抗争することになるのである。政治家が政権を争い、事業家が同業者と勝敗を競うような闘争的訓練は全然与えられていなかった」(高木惣吉「太平洋戦史」より)


なお、高木惣吉とは、旧海軍少将で、苦学して海軍兵学校に入り首席で卒業、海軍という組織にとどまらず幅広い人脈を構築し、反骨精神に富み、終戦工作にいち早く着手した人物だ。終戦を早めるために首相・東條英機の暗殺計画なども視野にいれていた。この高木惣吉のものの見方だけが正しいとはいわない。ただ、こうした傾向があてはまるならば、その組織は問題点や通弊・因習を発見して改革していく力はなくなるだろう。外部環境(世界)こそがリアルなものであるはずの組織ではこの傾向は致命的なものかもしれない。

結局のところ、異分子であり、和して同じない「和合」の人、言葉を変えれば、組織に所属させ礼儀作法を最低限守らせながらも、思考や思想が異なる批判勢力を常に一定の数を担保しておくことが、長い目でみた智恵なのかもしれない。もちろん、そんな人物を普段から許容できるかどうかはトップや指導層・経営層の器量次第となる。上に君臨する人たちが「和合」の人と「雷同」の人の組織バランス配分を十分に理解していなければ、それはそれで崩壊してしまうだけに難しい。


***


筆者:西田陽一

1976年、北海道生まれ。(株)陽雄代表取締役・戦略コンサルタント・作家。

株式会社 陽雄

~ 誠実に対話を行い 真剣に戦略を考え 目的の達成へ繋ぐ ~ We are committed to … Frame the scheme by a "back and forth" dialogue Invite participants in the strategic timing Advance the objective for your further success

0コメント

  • 1000 / 1000